神様お願い。

初詣に行く秀百々。

「ねぇ、アマミネくんは神様に何をお願いしたの?」

集まれるだけ集まった事務所のメンバーとの初詣の帰り、百々人は隣を歩く秀に尋ねた。
秀はその質問に少し考える素振りを見せ、百々人先輩は?と尋ね返す。それに百々人はゆるく答える。

「ぴぃちゃんに見捨てられませんように」
「先輩まだそんなこと言ってるんですか?」

あのプロデューサーがそんなことするわけないじゃないですか。と呆れたように返す秀に対して、百々人は曖昧に笑った。

「僕は言ったよ。アマミネくんの願い事は?やっぱり音楽で世界を変えられますように。とか?」

そう尋ねる百々人に一瞬ぽかん、とした顔をした秀はすぐに表情を改める。

「そんなの願うまでもないですよ。俺たちは、C.FIRSTは世界を変えるってもう決まってるんで」

まっすぐに、なにひとつ疑うことなく言い切るその姿が眩しくて、百々人は少しだけ目を細めた。
そんな百々人の様子に気付いていないのか、あと、と続ける秀に首を傾げて言葉を待つ。

「百々人先輩に振り向いてもらえますように。とかも願ってないですからね」
「え」

思ってもいなかった言葉に百々人の思考は一瞬止まり、じわじわと熱とともに戻ってくる。
確かに百々人は少し前に秀に告白され、曖昧に濁した。そのOKともNOともつかない答えに、そんな態度じゃ俺は諦めませんよ。と言われたのももちろん覚えていた。
それなのにまったくそこに意識が向かなかったのは、とっくに百々人が秀に惹かれていたからだった。
告白を曖昧に濁したのも、自分に自信を持てなかった百々人が秀からの気持ちを受け入れることに怖気づいただけで、言ってしまえば神様に出る幕はないのである。

「……そうなんだ」
「そうです。絶対に百々人先輩に俺のこと好きになってもらうんで、覚悟してください」

自信満々に言い切る秀に、もうキミのことが好きだよ。って答えたらどうなるのか、と百々人は一瞬だけ考えてからそっとその言葉を飲み込んだ。
もう少し、もう少しだけ自信がついたら自分から告白しよう。

「じゃあ、なにをお願いしたの?」
「……笑いませんか?」

そんな気持ちを外に漏らさないようにして百々人が再度尋ねると、秀がやや言い辛そうに確認を取る。
もちろんと百々人が頷けば、少し小さな声でようやく秀は問いに答えた。

「……爺ちゃんと婆ちゃんの健康を願いました」
「……ふ、」
「笑わないって言いましたよね?」
「ご、ごめん、突然の良い孫っぷりがちょっとツボに入っちゃって」

お詫びに肉まん奢ってあげる。と言う百々人に、少しむっとした表情のまま秀は頷いた。