「「「メリークリスマス!」」」
パーン!とクラッカーを鳴らす天道さんやかのんくんを見て、会議用のテーブルを繋げて白いテーブルクロスをかけて即席のパーティーテーブルに並んでる色んな料理を見ていたら、横から白いお皿を差し出された。
「百々人さんどうぞ。まだ出してない料理もありますから遠慮なく食べてくださいね」
「ぴぃちゃん。うん、ありがとう」
「皆さんが全員が揃うのはさすがに無理でしたけど、いつもより賑やかですね」
そういって楽し気に皆を見ているぴぃちゃんにそうだねって言って曖昧に頷く。
ぼんやりとした様子の僕にぴぃちゃんは気付いていたと思うけど、特に何も聞かずに穏やかに笑って、楽しんでくださいね。と言って、他の人にお皿を配りに行ってしまった。
「百々人先輩、どうしたんですか?」
味が混ざらないように考えて盛られたとても彼らしいお皿を持って、アマミネくんが話しかけてきた。
それとは逆で僕のお皿はまだ空っぽだ。
「お腹空いてないんですか?」
「ううん、空いてると思う。でも、なんだか不思議な感じでね」
「?」
「上手く言えないんだけど……なんでかな。クリスマスなんだなって思って」
家でクリスマスを祝ったことはないけれど、友達とは一緒にパーティをしたことがある。楽しくなかったわけではないけれど、なんとなく虚しさを感じていたのは事実だ。
でも、今やっているパーティはじんわりとした温かさを少しずつ僕に与えてくれている。何が違うのかはよく分からない。歳がバラバラで色んな風景が見えているからなのか、少し豪華な料理だからか、なんだかほわほわしてしまう。
「まぁ、クリスマスなんで。鋭心先輩は家のパーティだから来れなかったですけど、結構賑やかで楽しいですよね」
「そうだね」
「ここの食べ物に先輩嫌いなものとかあります?」
「え、ない、けど」
「じゃあ、これあげます。俺また取ってくるんで」
アマミネくんはそう言ってさっさと僕のお皿と自分のお皿を交換してお目当ての料理の方へ行ってしまった。
離れていったその姿に少しの寂しさを感じてしまった自分を誤魔化すように料理にフォークを刺す。よく見るとナポリタンの量が少し多いような気がして、好きなのかな。なんて思った。
ぴぃちゃんが言っていたのは本当で、どんどんと出てくる料理をみんなで楽しむ。特に柏木さんの食べっぷりが凄くて、見てるだけなのに少し胃が重くなってしまった。何種類かのケーキが出てきて全部食べたい!っていう子(子じゃない人もいたけど)に僕の分も食べて良いよって言ったら、若いんだからもっと食べないと!って返されて少し小さめに切られたケーキを全種類渡されてしまって困ったけど、美味しかった。
「では、そろそろプレゼント交換をしましょうか」
ぴぃちゃんの提案で1人1つのプレゼントを音楽に乗せて隣と交換し続けて、曲が終わった時に持っていたのが自分へのプレゼントになるというよくあるやつだけど、個性豊かな人たちがそれぞれ選んだものだから面白い結果になるって予想が出来たし、実際にとても盛り上がっていた。ちなみに僕が受け取ったプレゼントは古論さんチョイスの海の動物図鑑だった。
20時くらいに小さな子たちが先に帰って、21時には僕たちも帰宅を促される。伊勢谷くんや秋山くんは不満げだったけれど、最終的には笑顔でまた明日!って言って帰って行った。
僕も帰らなくてはいけないけど、なんだかいつもより足が重い。温かい熱が少しずつ冷めていくことに小さくため息をつけば、白くなって空に消えていく。
「百々人先輩!」
いい加減に帰らななくちゃと足を進めだしたところで後ろからアマミネくんに呼び止められた。僕が事務所を出る時はまだ他の人と話していたから急いで階段を降りて走って来たのか少しだけ息が荒かった。
「どうしたの?」
「はー……。よし。これどうぞ」
「え?」
突然渡された小さな袋にパチパチと目を瞬かせてしまう。
「なに、これ」
「クリスマスプレゼントです」
先輩用ですよ。と言われてそっと袋を開けてみると、出てきたのは青い石のついたピアスだった。普段僕がつけているのよりも青みが強くて、目の前の彼の瞳の色に似ていた。冷め始めていた熱が凄い早さで上がっていく。
「ぼ、く、何も準備してない、よ」
「良いですよ。俺が百々人先輩にあげたかっただけなので」
お礼につけてくださいね。なんて言うアマミネくんに小さく頷く。上がった熱が零れてしまいそうで壊さないようにピアスを強く握った。
「メリークリスマス、百々人先輩」
「うん、ありがとう。アマミネくん、メリークリスマス」
「駅まで一緒に行きましょう」
「うん」
2人並んで駅まで歩く。さっきまでの足の重さは噓のようで、早く家に帰ってこのピアスをつけたいなって思う。今までつけていたのとそんなに大きく変わらないから気付く人は少ないかもしれないけれど、アマミネくんは絶対に分かってくれるんだ。
それだけで良かった。