キミが生まれた日。

生まれてきてくれてありがとうって思ってる。言わないけど。

今日はいつもより多忙だった。日付が変わってからすぐに始まったLINKでの誕生日祝いメッセージへの返信、重なった小テストにいつも通りの生徒会の仕事、年末のライブに向けてのレッスンと打ち合わせ…。もちろん天才の俺に捌けないわけはないけれど、やっぱり多少は疲れも感じる。
風呂を済ませてタオルで髪を拭きながらスマホを確認すると、また数件のメッセージが届いていた。出来るだけ期待をしないようにと思いながら確認してみると、入ってるグループからのもので少しだけため息をはくのは抑えられなかった。

「あいつから……祝われないのは、初めてだな……」

あの日のインターホン越しに聞こえた絞り出すような声が頭に響く。
ぼんやりとしだした頭を振ると拭いきれていなかった髪から雫が散る。
後悔で足を止めている暇はない。1つ歳を取ったのならそれ以上に前に進まなくてはいけない。世界を変えると決めたのだから。
頭を振った弾みで机の下に落ちてしまったタオルを拾うために手を伸ばしたのと同じタイミングでスマホが着信を知らせてきた。思わず顔をあげてしまって机の下に思いっきり頭をぶつけたけど誰にも見られてないから問題ない。うん。
着信画面を確認してすぐに通話をタップする。

「百々人先輩、どうしました?」
「……今大丈夫?」
「はい」
「…………誕生日、おめでとう」

その言葉を聞いて、思わず首を傾げてしまった。
日付が変わってすぐにグループで祝われたのに、なんでまた?と思ったからだ。
そんな微妙な間を悟られたのだろう。少しの沈黙の後に言葉が続けられた。

「……直接は、言ってなかったから」
「ああ、そういえばそうでしたね。ありがとうございます」

出来るだけ平静に返せたと思うけれど頬が緩むのを抑えられない。それはそうだろう。恋人に誕生日を祝われて嬉しくないわけがない。
当日は忙しいからと次のオフの日にデートをすることにしていたし、誕生日プレゼントもその時に。って話になっていて楽しみにしていたのに更に前倒しで祝ってもらえたみたいだ。実際には当日だけど。

「じゃあ、おやすみ」
「あ、待ってください」

そう言って通話を切ろうとする先輩に待ったをかけて時計を見る。
今日もあと30分で終わり、いつも通りのなんでもない日が始まるのだから、少しくらい我儘を言っても良いだろうか。

「百々人先輩が良ければもう少し話しませんか?もう寝ます?」
「大丈夫だけど……」
「じゃあ、話しましょう」
「なんの話をするの?」
「えっと、実は今日ですね……」

なんでもない話をする。
残り少ない誕生日を恋人と過ごすことの幸福を初めて知った。
この人と……百々人先輩と鋭心先輩と世界を変えるんだ。

「デート、楽しみにしてます」
「……………うん、僕も」

日付が変わる3秒前に不意打ちを食らった。