この感情の名前を、

恋人だと思っていたイライ・クラークと少し違ったノートン・キャンベルの話。


私、イライ・クラークと彼、ノートン・キャンベルが恋仲となって季節が一つ過ぎようとしている。
手を繋いで、少し深いキスをして、けれどそこまで。そんな戯れのような触れ合いばかりの関係も決して嫌ではない。キスをする度に頬を赤らめて恥ずかしげにするノートンはいつ見ても可愛らしく愛おしい。
けれど、私も男なので。

「ノートン」
「なに?イライ」

私の部屋に二人きり、ベッドに並んで腰かけて他愛無い話をしていた。
今日の夕食は美味しかったね。
明日のゲームのハンターは誰だろう。
穏やかな声で話す彼の横で、私は先日見た夢が頭をチラつき腰の据わりが悪かった。
どんな夢を見たのかと言えば、まぁ、所謂淫夢というものだ。
私の下で可愛らしく鳴くノートンの夢を見て、目覚めた朝に自分で言うのもなんだが目を据わらせて準備をしようと決めてからの私の行動は随分と早かったように思う。姿を見たことがない荘園の主と内密にやり取りをし、必要なものを準備するのに大した時間はかからなかった。

「?イラ…ん、」

名前を呼んで少し空いた間に不思議そうな顔をするノートンにキスをする。少し驚いた様子だったけれど、恥ずかしげに彼は瞼を閉じた。
数度触れるだけのキスをして、ゆっくりと舌で彼の唇をなぞればおずおずと薄い唇を開いてくれたのでそのまま口内に舌を差し込み、奥で縮こまっているノートンの舌を吸い、絡めた。

「ん、んぅ……」

水音とノートンの鼻から抜けるような声が小さく部屋に響く。私の胸に添えられていた彼の腕が落ちるのを見送り、ゆっくりと唇を放せば透明な糸が互いの唇を繋ぎ、すぐにふつりと切れた。くたりと力の抜けたその身体をゆっくりとベッドに横たえると不思議そうにこちらを見上げてきた。

「……いらい?」
「ノートン、良いですか?」

ふぅふぅと上下する彼の胸元に手を這わせると、彼もその意図を理解したのだろう。
けれどその反応は予想していなかったものだった。

「駄目だ、イライ、それは駄目だよ」
「…………何故」

天眼を使わないようにしていた私はその拒否の言葉に動揺を隠せなかった。努めて平静に理由を尋ねる。
そして続いた言葉は先の動揺とは比べようもない衝撃的なものだった。

「流石に肉体関係を持つのは、君の想い人さんに悪いよ」
「……………は?」

彼は、今、何と言った?想い人に悪い?そう言ったのか?
言葉をなくす私に気付いていないのか、こちらを気遣うような声で彼は続けた。

「僕を求めてくれたのは純粋に嬉しい。でも、君はいずれ想い人さんのところへ戻る身なのだから、大切にしないといけないよ」

その言葉に目の前が赤く染まったように感じた。
宥めるように身を起こそうとしたノートンの肩を強く掴みベッドに押さえつけ、馬乗りになると彼は酷く戸惑った様子で私の名を呼ぶ。
そうか、そうか、貴方はそう思っていたのか。

始めから終わる前提でノートン・キャンベルはイライ・クラークと付き合っていたのか。

「ノートン」
「……っ、」

地を這うような声が出たのかサッと顔を青くしてこちらを見上げる目ににこりと微笑む。

「貴方にとって私は随分と軽薄な男に映っているようだ。どうやら上手く私の気持ちが伝わっていなかったようですね」
「ぁ、の……いら、」
「私は貴方を手放す気はない。でも、言葉だけでは上手く伝わらないかもしれません。だから、」

殊更ゆっくりとした動作で彼の引き締まった下腹部を撫でるとそこはひくり、と震えた。
さぁ、分かり合おう。

「教えてあげます。たっぷりと、ね」